総研大の授業「多変量解析」のレポートの一環で,次の論説を読んでいた.
佐藤寧 (2020).「1948年アメリカ大統領選挙予想は何故失敗したか」日本世論調査協会報「よろん」, 126巻 10-16.
この論説は資料
日本世論調査協会 (1948年5月) 「選挙予想は何故失敗したか―旧式調査法が原因― 世論調査専門家の批評」
を,筆者の元勤務先である内閣府大臣官房政府広報室で保管されているのを見つけ,内容を一部取り上げて報告している.
世論調査協会は1948年1月に任意団体として発足したもので,上述論文はその直後に作成されたものである.
当時の世情としては,前年の1947年に内閣審議室世論調査班により「経済実相報告書に対する世論動向調査」という初めての世論調査を,CIE(民間情報教育局.Civil Information and Education)の指導の下で実施したばかりであった.林知己夫氏の公開インタビューでは,当時の様子を次のように表現している.
今度は,CIEの世論調査です.これはね,「世論調査がなければ民主化できない」と言うんで,さぁー,みんなこれを熱心に習いましたね.最初はみんな「ランダムサンプリング」と言ったって訳が分からないから,新聞社の人が勉強した,勉強した.なぜそんなに勉強したかというとですね,勉強しないと,新聞が出せないんですよ.用紙割当委員会というのがありましてね,新聞紙を割り当てもらわなきゃいけないんですよ.それを CIEが握っているんですから.日本側にももちろん出先があって,それが CIEと通じているから,そこが「うん」と言わないと紙がもらえないんですよ.ということは,きちんと勉強しないと紙が来ないということなんです.それで「サンプリング,サンプリング」と一生懸命に勉強したわけです.そのようにやったから昭和 20年代の新聞社の(世論調査の)サンプリングは極めて厳正です.回収率も高いし,今見ても素晴らしい.
そんな時に,CIEの担当官は,日本の新聞社を集めて,「アメリカではクォータサンプルでやっているけれど,そんなのはサンプリングじゃない」と,トルーマン,デューイの大統領選挙の予測を持ち出してきてですね,「これはクォータサンプリングでやったから間違えたんだ.こんなもの夢夢やるんじゃないぞ」と.そうしてみんな肝に銘じたんですよね.サンプリングは厳正にやらなきゃいけないって教わったわけです.
そんなこと言ったって,今の人にはぜんぜん分かりませんでしょうけれど,それくらい厳密に当時の新聞社はサンプリングをやったんです.そこでまた,アメリカというのはすごいですね,占領した時に「統計数理という研究所が存在する.それがどこそこに事務所を持っているか」ということを分かっているんですよ.「そこに行って勉強しろ」と新聞社に言ったわけです.その時には,統計数理の一部分の社会調査をやろうとしているのが,既に東拓ビルにいたわけです.ちなみに,CIEがどこにあったかというと,富国生命の隣,昔の NHK,今は三井ですかね,あそこにあって(統数研に)近かったんですよ.だからあそこの職員の連中もよく来たし,新聞社もやって来たし,そういうことで統計数理研究所と新聞社の結びつきというのが非常に緊密になっていったんです.それが統数研の生き残りにも重大なる影響があったとぼくは見てます.それがきっかけで,色々新聞に書く機会もできました.
さて,上の林知己夫のインタビュー内容も是非どこかで紹介しようと思っていた内容ではあるが,今回紹介したいのは当時の日本世論調査協会が用いていた語彙「偏倚」である.
この方法[割当見本法のこと]は一応もっともらしく聞こえるが実際には必ず見本に bias(偏倚)が生じる。
と,なんとbiasの語に訳を与えているではないか!漢辞海でも
【偏依・偏倚】ヘンイ 一方にかたよるさま。〈中庸〉
という項目を確認した.早速明日から使っていこうと思う.
音声だけで「変位」に聞こえても,なんか意味が通る気がする.ていうか「偏位」も悪くない?
コメント