Introductionに過ぎない第1章が終わり,ようやく本格的な内容に入った最初の節である.
2.1.1 確率過程:準備と定義
まず任意の集合 について,有限次元分布の族により の積 -代数 (cylindrical -algebra) 上の分布が一意に定まること(Kolmogorovの定理)から,確率過程の「バージョン」(伊藤清『確率論』の言う「法則同等」)の用語を説き起こすところから始まる(これが定義2.1.1).任意の確率変数の族 (これを確率変数という)に対して,これが定める 上の分布 を「 の分布」と呼ぶことにすると,写像 は可測とは限らないが,あるバージョンを取れば可測になり,実際に を押し出す. 上の恒等写像を取れば良いのだ.
「確率論の詳細はこの教科書を参考にすること」として Dudley (2002) を挙げている.Richard Dudley は Evarist Giné の MIT での博士課程時代の指導教官である.
確率過程の確率連続性,可分性を定義して,簡単な補題を地の文で示す.
定義2.1.3で -過程, -過程の概念を定義する.これらのクラスはいずれも,有界関数の空間 または一様連続関数の空間 上に分布の台を持ち,双方の空間の一様ノルムについて像が殆ど確実にある有界集合内に収まることを言う.別の言い方をすれば, が -過程, -過程であるとは,あるバージョン と充満集合 が存在して, が のそれぞれの有界部分集合になることをいう.
そしてそのあとなんと, が可分になることと が全有界になることとは同値であること,その結果として が全有界ならば のBorel -代数と積 -代数(の 上への制限)とが一致することを地の文で触れるだけで終えている!(この結果は後の定理で何度も使う). に対する近い結果は Conway の Functional Analysis に Stone-Cech のコンパクト化の応用として書いてあったが,この変種を自分で完全に示すのには1週間以上を費やした.自分の距離空間論(全有界性,完備化など)や関数解析(Banach空間の回帰性やHahn-Banachの分離定理など)の理解の甘い点をたくさん発見する有意義な時間になった.
続いて,Polish確率空間上のBorel確率測度は緊密になる,というOxtoby-Ulamの定理の主張のみを述べて,証明は演習としている(こっちの方が遥かに簡単).
以上の結果を綜合して,次の命題を述べている.
命題2.1.5. を全有界な距離空間, を -過程とする.このとき, のあるバージョンであって, -値確率変数であり,分布は 上に台を持つ 上の緊密なBorel確率分布であるようなものが存在する.
例2.1.6では,全有界な についての -過程という対象は,一般の可分Banach空間 についての -値確率変数という対象と等価である(同一視出来る)ことを述べている.その際に,Banach空間 が可分であることと,双対空間の単位閉球 が距離化可能であることが同値であることを前提とした記述がある.上述の の可分性の特徴付けの証明では重要なピースとして使うが,何の注記もなく当然の事実のように前提にされると面食らう.
最後に,緊密な分布に従う -過程も,結局は上で考えた で が全有界の場合に帰着することを述べる次の命題でこの小節は終わりになる.
命題2.1.7. を集合, を -過程とする.次は同値.
(1) の有限次元周辺分布は 上のあるタイトなBorel確率測度の有限次元周辺分布に一致する.
(2) 上に擬距離 が存在して は全有界になり, の分布は部分集合 上に台を持つ.
コメント